大村知事リコール署名不正、地元中日新聞は記事を削除 河村市長、高須院長が主導

大村知事リコール署名、名古屋市選管分16万筆でも8割超が不正と発覚

河村たかし名古屋市長、「高須クリニック院長」高須克弥氏らが主導して行なっていた大村秀章愛知県知事のリコール(解職)請求署名活動は、集まった署名が住民投票実施に必要な法定数約86万に及ばず、高須院長の持病の悪化を理由にして一部自治体での期間を残したまま活動を中止しました。署名集めは県内49の自治体で行われ、64の選挙管理委員会に対し43万筆あまりが提出されました。その後、同一人物の筆跡と思われる署名や、選挙人名簿に登録されていない名前など、不正が疑われる署名が大量に含まれることが発覚しました。twitterでは署名集めの活動を行った現職市議による内部告発もありましたが、高須院長は、裏切り者と罵り、リコールに反対する勢力の工作を匂わせるなど泥沼の様相を呈してきました。リコールは不成立となりましたが、不正な署名が8割超に及ぶとの見込みが問題視され、提出された選管ごとに調査が行われることになり、刑事事件に発展する見込みとなってきました。


そして、名古屋市選管は提出された約16万人分の署名の調査を終え、8割以上に不正が疑われるという結果を発表し、1月29日(金)夜、共同通信が報じました。

知事リコール署名8割超不正疑い
名古屋市選管に提出16万人分で

2021/1/29 21:33 (JST)1/29 21:51 (JST)updated
©一般社団法人共同通信社

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡り、名古屋市選挙管理委員会に提出された約16万人分の署名のうち、8割以上に不正が疑われるとの調査結果を市選管がまとめたことが29日分かった。愛知県選管は、県内64選管に提出された署名の大部分に不正が疑われるとして、地方自治法違反容疑での刑事告発に向け調整を進める方針を決めた。関係者が明らかにした。

 住民の意思で地方自治体の首長などを解職できる直接民主制を揺るがす重大な問題だと判断した。週明けにも選管委員会を開き、告発のタイミングなどを巡り協議する。
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共同通信が報じた署名活動の様子を撮った写真でも、署名参加呼びかけのビラに河村市長、高須院長の顔写真が使われ、彼らが署名活動を主導してきたことがはっきりとわかります。

8割が不正とのことですが、一見してわかる同一筆跡のものをとりあえず無効にしたと考えられ、残りの中にも本人以外の偽造された署名がある可能性があります。複数の県議や市議、首長が自分の個人情報の開示請求をして発覚、「無断で自分の名前を書かれた」と報道されています。

東京新聞は掲載するも中日新聞は紙面に掲載せず

名古屋政界にとって重要なトピックですから当然地元名古屋の中日新聞では大きく掲載されるものと私は思っていました。しかし、1月29日(金)夕刊、30日(土)朝・夕刊、31日(日)朝刊を確認しましたが、驚くべきことにこの件は一行も報じられていません。

web上の記事を確認してみます。まずは東京新聞

東京新聞サイト上で「リコール署名」を検索
東京新聞サイト上で「リコール署名」を検索


1番上が12月28日付の下記記事。

大村知事リコール、署名の8割超が不正か 高須院長らが提出  愛知
2020年12月28日 23時17分

 美容外科高須クリニック」の高須克弥院長らが主導した愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動で、県選挙管理委員会は28日、署名の提出があった県内64選管のうち、14の選管の署名を調べたところ、署名の8割超が選挙人名簿に登録されていない人物や、同一人物の筆跡と疑われる署名があったと明らかにした。


2番目に1月29日23時24分付で共同配信の記事を出しました。前掲記事と同様の内容です。


3番目の記事は、既に削除されていますが、前掲共同の記事と更新日、書き出し、写真が同じなので2番目の記事に差し替えられたようです。


4番目が1月12日付の下記記事です。

一方、中日新聞のサイトで同じように検索してみますが、1月29日以降の記事は存在しません。

中日新聞サイト上で「リコール署名」を検索
中日新聞サイト上で「リコール署名」を検索


1番目は、1月12日付記事。

リコール署名の8割超に問題 愛知知事巡り、46選管分途中集計
2021年1月12日 22時12分 (1月12日 22時16分更新) 会員限定

 美容外科高須クリニック」の高須克弥院長らが大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)に向けて県内64市区町村の選管に提出した署名について、不正の有無を調べている県選管は12日、これまでに調査を終えた46の選管で署名の8割以上に問題があったと発表した。


2番目が1月29日の共同配信の記事ですが削除されています。


3番目が昨年11月10日付の下記記事。

関連記事は以上です。東京新聞には掲載されている1月29日の名古屋市選管の記事が中日新聞ではなぜ削除されているのでしょうか?紙面では全く掲載せず、webでも一度掲載した記事を削除。地元の名古屋でこそ報じる必要があるはずですが、意図的に触れないようにしているとしか考えられず、中日新聞に大変な不信感を持ちました。


中日新聞は地元名古屋で圧倒的なシェアを誇る

ここで地元愛知・名古屋における中日新聞の重要性を確認しておきます。首都圏において中日新聞社が発行する東京新聞はマイナーなローカル紙という認識だと思われますが、地元愛知、岐阜、三重における中日新聞のシェア、特に愛知では圧倒的です。そのため、東京新聞(約48万部)と中日新聞(約240万部)を合計した公称の朝刊発行部数は、毎日(約282万部)、日経(約243万部)、産経(約150万部)を上回ります*1

「読売新聞メディアデータ 2020」から都道府県別の新聞社ごとの販売部数と世帯普及率の表を以下に引用します。首都圏4県と東海4県を見比べればその違いがよくわかるでしょう。

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体感的には名古屋では8割くらい、特別な理由がない限り中日新聞を取っているのが普通という感じです。よって中日新聞がどう報じるかはこの地方にとって大きな影響力があり、世論を左右する力があると言えるでしょう。


中日新聞は河村市長に対する批判を控えている?

当初の蜜月関係は打って変わり、ここ数年、大村知事と河村市長は最悪な関係が続いています。あいちトリエンナーレに発する一連の市長の言動、コロナ対応を巡ってもやたらと大村知事に反対するスタンス、コロナ禍における署名活動の実施等、主に市長の言動に疑問を覚えることばかりです。


他の在名メディア同様、中日新聞も日々の記事で二人の険悪な関係を報じてはいますが、特にリコール問題に関しては河村市長、高須院長らの疑問を覚える言動に関して新聞社として何ら批判を載せることなく、両氏の会見での主張をそのまま紙面に載せるような一見中立に見えて、実は河村市長側に肩入れしたスタンスであると感じています。

以前に私は、中日新聞社に以下のような意見を送りました。

高須クリニック院長高須氏と河村市長が主導して行っていた大村知事リコール請求について、貴紙の報道に意見します。

署名集めの受任者であった豊川市議でもある方が、集まった署名には筆跡、拇印が同じ不正な署名が大量にあったとツイッターで報告しています。このツイートに対して高須氏は、デマ呼ばわりし裏切り者と罵っています。他紙の報道にもあった通り、高須氏は署名集めに関連し、車のブレーキに細工された、事務所に盗聴器をしかけられた等の根拠不明瞭で被害妄想の発言が多々見られます。高須氏、河村氏が街頭で署名集めを行っていた場所では右翼団体暴力団関係者と思われる人物が協力していたと言う目撃情報があります。そもそも、両氏がリコール請求の理由としているあいちトリエンナーレの展示内容については、誤解、曲解に基づく主張がなされています。例えば、昭和天皇の写真を燃やした作品と主張する内容は、正しくは昭和天皇を素材にした作品が右翼団体の抗議で燃やされた事実をモチーフにした作品です(共産党のURL参照)。

署名集めは高須氏の持病の悪化により断念したと発表されましたが、要件を満たす署名数に遠く及ぼない見込みであることが理由であると思われます。選挙で選ばれた首長をリコールするということは重大であるにも関わらず、上記の通り高須氏らの行為には疑問を感じる点が多々あります。また、署名を受領する自治体、選管側にも相当の経費がかかっていると思われ、高須氏らの起こした一連の行為が妥当であったのかきちんと検証されるべきであると思います。

貴紙の報道についてですが、高須氏らの主張をそのまま掲載した記事が多くありました。事実をそのまま報道したと言われるのかもしれませんが、前述の通り、疑問を抱く内容が含まれるためそれをそのまま掲載することはプロパガンダに協力したも同然であり、背景を十分に知らない読者が記事を読み、誤った世論が形成された恐れがあります。地元を代表する新聞社として、もっと詳しく特集を行い、読者に判断の助けとなる情報や社説を提供するべきであったと考えます。

最近では内外で政治活動に伴いデマを含む情報が流布されることが問題なっており、ファクトチェックを行い、質の高い情報を提供することが新聞社に求められる使命であり存在意義であると思います。私がここに記述した情報も含めて、関係者や識者に取材を行って頂き、一連のできごとを検証する記事を掲載して頂きたく要望します。

参考URL:https://twitter.com/kuraaruk/status/1324254985513676800?s=21
https://twitter.com/katsuyatakasu/status/1325249012346155008?s=21
https://twitter.com/tsuda/status/1325055697650769922?s=21
https://twitter.com/akira_mori0120/status/1324699440549036032?s=20
https://togetter.com/li/1588566
https://www.jcp-aichi.jp/chijirecallno

河村市長は過去にリコール署名で「成功経験」

前代未聞の大量の偽造署名発覚ですが、実は河村市長がリコール署名を主導したのは初めてではありません。2010年に河村市長の公約である減税政策が名古屋市議会で否決されたことをきっかけとして議会のリコール(解散)請求を行いました。そのときは、リコール請求の署名が規定数に達し成立、翌2011年2月の住民投票議会解散への賛成が過半数となり政令指定市初のリコールが成立しました。市議は全員辞職となり、3月に行われた出直し選では市長率いる地域政党減税日本」から出馬した候補者が大量に当選、75議席中28議席を獲得し第1党となりました。

ここに来て、当時のリコール署名でも偽造があったのだという証言が出て来ました。1991年から名古屋市会議員を務め議長経験者でもある横井利明氏(自民)がblogに記述しているところによると、複数の者による同一筆跡の署名が30%程度あったが市選管の判定によって有効となったとのこと。

同様の手口は、河村市長が主導し10年前に行われた「名古屋市議会リコール」の際にもおこなわれ、署名活動をおこなった方々によると、30%程度は複数の方々による同一筆跡、いわゆる「偽造」だったという。しかし、当時、名古屋市選挙管理委員会によってこれら署名は「有効」とされ、「名古屋市議会リコール」が成立したという苦い過去がある。

このときの河村市長の「成功経験」が多少の署名の偽造も問題ないという認識となり、今回のリコール署名でノウハウとして利用された可能性もあります。しかも、当時のリコール請求で集めた署名簿はその後の市議選で選挙活動に使い回したという問題もありました。

リコール署名簿の複製大量流出か 「市議選で利用」証言も
2011年4月11日 13:13

名古屋市河村たかし市長が主導して昨年夏に実施されたリコール(議会の解散請求)運動で集まった署名簿が電子データとして保管され、外部に流出した疑いがあることが11日、分かった。一部は、3月の出直し市議選で市長側の地域政党減税日本」から出馬した候補者らが選挙で利用したとされる。

中日新聞はこの問題を大きく報じるべきだ

全体の8割超という、これだけ大量の偽造の署名が見つかったとなると、少数の者が自発的に行ったのでなく組織的に行われ、代表者である高須、河村氏らも認識していたことが強く疑われます。選挙で選ばれた首長を不正な手段で解職するなどということは、トランプ支持者がアメリカ議会を襲撃したのに匹敵するような民主主義にとって重大な問題です。中日新聞はこの問題についてもっと詳細に検証、総括する記事を掲載すべきでしょう。

*1:執筆時点Wikipedia掲載の集計による。日本の新聞 - Wikipedia