JR東海が駅構内での取材を拒否 コロナ緊急事態宣言で

コロナ感染者の増加により1都3県に緊急事態宣言が発出された1月7日、名古屋駅で新幹線の利用客に取材しようとした中日新聞他の報道機関に対しJR東海が取材を許可しなかったため断念していたことが記者のコラムで明かされていた。

f:id:J_J_R:20210120135624j:plain中日新聞2021年1月20日朝刊〈市民板(名古屋市)〉


JR東海(以下JR)は表向き「立ち会う広報課員が足りない」等を理由にしていたそうだが、JRほどの会社が特別な事情なく人を用意できないとは思えず口実であろう。コロナにより「新幹線の利用者が減っている」又は「利用を控えるべきである」という自社にとってネガティブな情報が報道に出ることをよく思わなかったJRが断ったとみるのが妥当だろう。

利益を追求する民間企業にとって、自社の良いイメージがメディアに登場するように、又、悪いイメージが登場しないようにコントロールするのが広報部の仕事であり、その動機は理解できる。しかしコロナによる影響は報道する価値、公益性があると思うところ、JRの一存でそれを断ることができるのか、また報道の側が簡単に引き下がるものなのかと少々驚きを感じた。

コラムで触れられている通り、駅構内は私有地でありJRに管理権があるので、勝手に取材して退去を求められたら応じなければならないだろう。地元の大企業であり、東海道新幹線を運行するJRは、盆暮の帰省ラッシュや新型車両のデビューなどの場面でメディアに登場するが、思えばあれらの映像や記事はJRの広報の許可を得て取材したものなのだろう。また、リニアの建設工事現場や車両所など一般に立ち入りが禁止されている場所にメディアが招待されて入ることもある。そう考えると、JRとの関係を悪化させたくないメディアの側にもある程度忖度が働くのだろうか。

メディアと取材対象者の関係は、JRに限らず大企業相手の取材では常に付き纏う問題であろう。顕著な例で言えば、原発を抱える東電や安倍政権以降の総理官邸で明らかになっているように。JRは言うまでもなく公共交通機関の運営者として社会的責任を問われる場面がある。特に建設を進めているリニアでは、大井川の水脈問題で静岡県の住民から差し止め訴訟を起こされており、調布の外環道工事で発覚した空洞問題では大震度地下の掘削に不安が生じている等公共の利益に大いに関係してくる。JRの都合で取材を拒否したという一件を知って、こうした不都合な真実を報じさせないようにする力が働くのではないかと不安を覚えた。

メディアの側にも、報道には単なる企業の広報メディアとは違う存在意義があるのだから、忖度することなくその使命を果たして欲しいと思う。

Amazonギフト券の転売にAmazonの責任はないのか

Amazonギフト券の転売について書いたらくからちゃ氏(id:lacucaracha)のこちらの記事に、以下のコメントを残した。

www.yutorism.jp

id:J_J_R 2020/12/10
この問題、amazonが詐欺の被害者に返還してるなら良いけど、一方的に無効にするだけならその分丸儲けだよね。/規約を根拠にしているけど購入者が善意無過失であればamazonを訴えたら勝てるのでは?

それに対し直接的ではないにせよ、いくつか言及されたので掘り下げたい。
大前提としては、私は、この手の現金化/転売サービスを利用したことは一度もない(Amazonギフト券自体は日常的に利用している。)。
大元のAmazonが利用するなとも言っており*1、特殊詐欺等の犯罪、マネーロンダリングに利用されている可能性があることから利用すべきでないことは言うまでもない。その上で、この問題にはいくつかの気になる点がある。


Amazonは丸儲けか?

id:inazuma2073 アマゾンがするなって言ってることをしてるんだから、アマゾン丸儲けとはちょっと違うのでは?


会計的に言えば、Amazonは、当初ギフト券購入者からの現金払込と引き換えに発行した商品券(預かり金、債務)を、規約違反を理由に一方的に無効とすることによって商品券は債務消滅益(雑収入)に振り替えられる。これは純粋にAmazonの利益となる。よって丸儲けであることは純然たる事実だ。

これは例えば、ネットゲーム運営会社が規約違反を理由にBANをした会員に会費を返還しないこととも性質が異なる。ネットゲーム等であれば返還しないこととなった金銭はサービスの利用対価、あるいは損害賠償に充てられるのであるが、ギフト券の場合、換金性の高い金券であり、Amazonは何らの商品や役務提供もなしに払い込まれた金銭を無償で取得することとなる。特殊詐欺等の犯罪に対策すべきであるのはもちろんだが、そのこととAmazonが無償で利益を得ることとは別問題だ。ギフト券が特殊詐欺や不正転売に使われ、それを探知し無効にすることでAmazonは漁夫の利を得ることになるのだ。Amazonにとっては被害どころか利益になるから積極的にこれを防止するインセンティブがない。その点で以下のコメントは的を得ている。

id:kojietta 犯罪のケースで、以前は被害者が損をしてアマギフ出品者と購入者が得をしていた。今は被害者と購入者が損をしてアマギフ出品者とamazonが得をしている。amazonは自分が得をする側に回ったからこれ以上対策する気がない。


ここで気になるのは、Amazonギフト券が特殊詐欺の詐取手段として使われることが知られるようになって久しいが、Amazonは捜査機関に協力して犯人検挙や、被害を阻止できた場合は被害者に弁済したりしているのだろうか?ということである。私のコメントに「amazonが詐欺の被害者に返還してるなら良いけど」と書いたのは、その点が不明であるからだ。コンビニで店員がギフト券を買いに来た被害者を水際で制止してニュースで報じられることがあるが、Amazonの措置で被害を防いだと言う報道は聞いたことがない。被害者の手元には送信したギフト券番号が残るから、その番号がどこで誰に使われたか調査すれば犯人検挙に結び付くはずである。らくからちゃ氏の指摘の通り、資金決済法に基づきAmazonに立入検査に入るべきである。


転売購入者は保護されないか?

次に転売購入者の側の論点だ。転売サイトでディスカウントされたギフト券を購入した者はその全額がAmazonの措置により無効とされても仕方がないのだろうか。

id:cinefuk Amazonは不正なAmaギフを登録したユーザを「犯罪組織の一味」と捉えて永久垢BAN(Kindleも)する権限もある筈。 https://twitter.com/cinefuk/status/1335758589856628736 うすうす出所わかってて利用している人は「善意の第三者」と言えない

id:jaguarsan 頭悪いコメが大企業Amazonを悪役にしてりゃ済むと考えてるけど、マネーロンダリングに使われた購入代金が満額支払われると信じてるなら社会経験少なすぎでは。

id:stp7 転売サイトから購入したギフトコードを使用するのは規約で禁止されているんだから、BANされても何も文句言えないだろ。 https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=4705466051

もちろん、転売サイトが不正な手段であることを知りながらや、Amazonによる直接の警告を受けたのにも関わらず購入を続けた者が保護されないのは当然である。だが、このような背景を知らずに、ギフト券のセール販売を行う大手事業者との違いを意識せず転売サイトを利用する者(完全に情報弱者ではあるが)がいないとは限らない。「購入者が善意無過失であれば」と限定して書いたのはそのためだ。

前述したようにAmazonのサイト内に「転売サイトを利用するな」というページはあるにはあるが、らくからちゃ氏の記事でも書いてあるように、ギフト券の登録ページ等から目立つように導線が用意されていないからAmazon の側で十分な警告を行なったとは言えない面がある。


Amazonサインイン



Amazonの規約(Amazonギフト券細則5)には以下のように定めがあるので、不正利用されたギフト券を無効とされることに利用者は同意したことになる。

本細則に違反するギフト券の利用 お客様は、本細則を順守し、誤解を招く方法、詐欺的な方法、不公正な方法、その他アマゾン、アマゾンジャパン合同会社、関連会社またはお客様に有害な方法でギフト券を使用しません。アマゾンは、お客様への通知なく、(i)返金を伴うことなくギフト券(ギフト券の残高を含みます)を無効とし、(ii)アカウントを終了もしくは停止し、(iii)アマゾンサイト上のサービスの利用を終了もしくは停止し、(iv)注文をキャンセルもしくは制限し、または(v)詐欺、不正行為もしくは未承認の販売業者からのギフト券の購入を含むその他の本細則違反により、ギフト券が取得、使用もしくはアカウントに適用されたとアマゾンが疑う場合に、他の支払い方法を要求する権利を留保します。

Amazon.co.jp ヘルプ: Amazonギフト券細則


しかし、不正利用によってAmazonが負う損害を大きく超えて消費者の権利を不当に制限したものであるとされれば、消費者契約法に基づき上記規約は無効となる。私が「規約を根拠にしているけど購入者が善意無過失であればamazonを訴えたら勝てるのでは?」と書いたのはこのことである。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者契約法 | e-Gov法令検索

Amazonには、一企業のサービスを超えてインフラとしても利用されつつある資金決済サービスの運営者として、社会的責任としてこれらの問題に対処する義務がある。